チベット横断④ 世界最高所の寺院ロンボクからネパール国境へ
チベットのロンボク寺は、世界最高所にある寺院で海抜は5,150mに達する。僕らはそこで一泊し、翌朝再びランクルに乗り込み、登って来た道を引き返してネパール国境を目指した。
海抜4,700mまで下り、小さな集落に差し掛かるとそこではヤクが飼育されていた。辺境で過酷に感じるこのような場所でも人々の営みがあることに改めて驚かされる。
広大な湿地の上をカモメが飛んでいた。カモメは、チベットや北極圏で繁殖し越冬のため日本にもやってくる渡り鳥。数千キロの距離を地球の磁気を頼りに移動するらしい。
途中の休憩でドライバーのワンゲンが腰をおろして遠くを見つめながらタバコを吸う姿が印象的だった。
ベースキャンプの近くでも姿を見かけたマーモットの巣穴があちこちに開いていた。人の気配があるせいか、なかなか外には出てこない。
ガタゴトと揺れる荒野を、ただひたすら何時間も走り続ける。ランクルの車内は、人も荷物も跳ねるので、バックパックの中のノートパソコンを取り出して、振動で壊れないように腕に抱えていなければならなかった。
途中の峠で車を降り、他の個人旅行者と一緒に、雲の多い夏のヒマラヤを眺める。
ティンリの町が近づく頃には、馬や場所に乗った人たちと頻繁にすれ違うようになった。
ロンボク寺を出発したランクルは荒野をひた走り、3時間後にティンリに到着した。本当に何もない場所を走っていると、小さな町に戻ってきただけでもホッとする。ティンリで二度利用した食堂「川渝人家」は、シチュエーションのプラセボもあるがとても美味しかった。チベット語で美味しいは「シンポドゥ」。
チベットのラサからネパールを結ぶ、中尼公路(ちゅうにこうろ)の5,050mの峠タン・ラ(別名:ヤルレプ・シュン・ラ)。この峠を超えると急な下り坂が続き、ネパール国境のある海抜2,350mのダム(樟木)まで、一気に下りていく。
チベットの群青色の空の下、峠で強風にたなびくタルチョ。
16:00頃に海抜4,040mのヤルレプという集落を過ぎる。
16:30頃、国境の手前にあるニャラムの町に着いた。パーミットのチェックをしたものの、これより先、ネパール国境へ続くダムの町へ行くゲートは19:30になるまで開かないらしい。待っている最中に、僕らのようにヒマラヤを超えてネパールへ向かう旅人を乗せたランクルが20台ほど列を作った。そのうち待ちくたびれたドライバーがクラクションを鳴らすようになった。
チベットでは北京時間が使われているので20時を過ぎてもまだ明るい。ゲートが開いてようやく進めると思ったら、この先で土砂崩れがあり復旧するまで通行止めになっていた。車列は一向に動かない。長時間の移動の後、ニャラムで長時間待たされ、さらに、あとわずかのところで再び足止めを食らう。なかなかタフな状況だった。
先へ進むことができたのは、完全に陽が落ちてからだった。
真っ暗なヒマラヤの山道を、連なるランクルのヘッドライトが照らし出す。ルートの大半は、落ちたら完全にアウトとなる崖沿いの道だ。車列はガードレールのない崖っぷちの細い道をへばりつくように進んで行く。ダムの町に到着したのは、夜の22時過ぎだった。遅い時間だったが、到着後に見つけた宿にチェックインすることができた。
この夜は、数日間に渡って運転し続けてくれたチベタンのドライバー、ワンゲンと別れの時だった。スピードを控えめに運転し、チベットのマントラを唱えながら、安全運転を心がけてくれたワンゲンは、ラサで待つ妻と二人の子供のたちのもとへ来た道を帰って行った。トゥジェチェ!
ダムの町で泊まった宿は、1ベッド40元のドミトリー。遅くまでやっていた近くの食堂で食べて宿に戻り、巨大な蜘蛛が這うシャワー室で三日振りに身体を洗った。喉が痛むほど乾燥していて夜は寒かったたのに、ここは不快なほどジメジメしていて気温も高いので、クーラーを付けて寝た。