ネパールの古都パタン (世界遺産の旧王宮広場、パタン博物館、ネワール仏教寺院のゴールデンテンプル)
ネパールの首都カトマンズの南にある古都パタンに向かうため、タメル地区のゲストハウスから歩いてラトナパークのバスストップへ向かった。
埃っぽい空気とクラクションの響くのなか、乗合バスの客引きの少年が行き先を大きな声で叫んでいた。「パタン!パタン!パタン!」という声に導かれて乗合バスに乗り込む。
現在はラリトプルとも呼ばれるパタンは、カトマンズ盆地の南に広がるエリア。西暦299年から続く長い歴史があり、世界遺産にも登録されているパタン・ダルバール広場(旧王宮広場)では、ネワール文化が色濃く反映された見事な建築や美しい彫刻を見ることができる。
ヒンドゥー神話を基にした精巧なレリーフはどれも見ごたえがある。三王国時代にカトマンズ、バクタプル、パタンで花開いたネワール民族の芸術の才能は、寺院、王宮、民家などの建築物や金、銀、ブロンズなどを用いる金属像などによく現れている。優れた芸術はマッラ王朝滅亡と共に衰えてしまったが、現在でも職人たちが伝統技術を引き継ぎ、町では神像やお面などの土産物屋が多くあった。
入り口にある見事なガルーダの彫刻に目を奪われるパタン博物館に足を運んだ。旧王宮を改装したこの博物館は、外観こそ伝統的なネワール建築だが、館内に一歩足を踏み入れると、洗練されたモダンな空間が広がっている。この博物館にはヒンドゥー教、ジャイナ教、仏教の神像、仏具、装飾品など約300点展示されていて、ネパール屈指の博物館とされている。
パタン博物館では、貴重な仏像や神像が数多く展示されている。男女が交わるヤブユムと言われる像は、男性神が智慧を、女性神が慈悲を象徴し、この結合が悟りに至る究極の境地を表現していて、生命の根源や宇宙の調和といった深い哲学が込められているらしい。どれほど深く信仰と芸術を結びつけてきたのかが伝わってくる素晴らしい展示だった。入場料は250ルピー(約450円)。
旧王宮広場の近くにあるゴールデンテンプルは、パタンでは特に有名な寺院とのことで、地図を頼りに向かった。建物が密集した路地を歩くと小さな入り口があった。
正式名称をヒラニャ・ヴァルマ・マハヴィハール(Hiranya Varna Mahavihar)というゴールデンテンプルは、「黄金寺院」の名の通り、本堂が金箔に覆われたネワール族の僧院で、その歴史は12世紀まで遡る。ネワール族による密教はチベットの密教よりも600年以上も前に成立したとされていて、チベットで見てきた寺院とはまた違った雰囲気。ゾウ、サル、獅子、狛犬やガルーダの像などチャンプルー感が強い。この地の寛容さの証拠なのかもしれない。
亀の頭を撫でながら話しかけてきた案内役の男性に導かれて内部を見て回ると、チベットの寺院でよく見た白い布(カタ)を掛けられた仏像が並んでいた。チベットからヒマラヤを降りて随分と離れたが、それでも宗教や文化的なつながりがあることを感じた。
パタンは職人の町としても知られており、町を歩くと伝統的な金属工芸や彫刻品を制作する工房が多い。土産物屋の軒先でよく目にするのが、ネワール族の伝統的なお面だ。それらのお面は多くが木彫りで、鮮やかな色彩と独特の表情を持っている。お面には神々や悪霊、そして動物を模したものがあり、邪悪な力を退けたり、平和をもたらすなど、それぞれに意味や役割があるという。
パタンの街を歩き回り、日が暮れる頃、ローカルバスに乗ってカトマンズのタメル地区へ戻った。バスの先頭座席から眺めるカオスな道路はアトラクションのよう。車線がない道を車やバイクがクラクションを鳴らしながら走る光景にも慣れてしまった。明日は朝6時半発のバスで西のポカラへ向かう。