アンナプルナ トレッキング(後編) Day 7 – Day 13
Day 7:シヌワ (2340m) ~ バンブー (2490m)
2007-11-06

トレッキング7日目。朝6時に起きると、昨夜から降り始めた強い雨は止んでいた。目指すアンナプルナ・ベースキャンプは、雲に覆われた巨大な渓谷のまだずっと奥だ。晴れ間が見え始めた9時頃にシヌワを出発した。


今にも降りそうな空の下を2時間ほど歩くうちに、本降りの雨になってしまった。岩場の至る所が滝になり、足元はぬかるんでいる。標高2,490mの「バンブー」で雨が落ち着くのを待った。しかし、午後になっても雨は止まなかった。

やむなく、バンブーのロッジにチェックインして、時間を持て余したが、体を休めるにはいいタイミグだった。夕飯は、コタツ式のテーブルに足を入れて食べるダルバートが最高で、各国のトレッカーとチャイを飲みながら談笑するのはいい時間だった。なぜかそれぞれの国の歌を歌うことになり、僕らは「上を向いて歩こう」を披露した。
Day 8:バンブー (2490m) ~ ドバン (2600m)
2007-11-07

翌朝、雨はまだ細かく降り続いていたが、雨具を羽織って出発することにした。しかし、小降りだった雨は音を立てるほど激しくなった。登山道は泥だらけで、石階段は上から水が流れていた。
結局、今日も2時間歩いただけで進むのを諦め、標高2,600mの「ドバン」のロッジにチェックインした。悪天候、装備不足、疲労、5日間浴びていないシャワー、思うように進めない焦り。メンバーの間にも小さな不満がちらつき始めていた。トレッキングは、体だけでなく、心の強さも試してくる。6人だった僕らのグループは、雨でも先を急ぎたい3人と、天候の回復を待ちたい僕ら3人のチームに分かれ、別行動することになった。
Day 9:ドバン (2600m) ~ デオラリ (3220m)
2007-11-08

トレッキング9日目。標高2,600mのドバンの空にはまだ雲がかかっていたが、昨日までとは違って希望の持てる空だった。朝8時、霧の渓谷に足を踏み出す。連日の雨が山を潤していて、谷底を流れる川の音も大きく響いている。

標高2,600mから3,200m以上まで一気に登る。ヒマラヤの森は次第に苔や灌木へと変わり、歩く道はゴツゴツと険しい。高度も上がってきたので、息を整えながら進んだ。

デオラリのロッジが遠くに見えた頃、谷間から下りてくる冷たい風と共にみぞれも降り始めた。




3時間後の11時に、デオラリのロッジに到着。今日はまだ早かったが、雲が多い午後にベースキャンプまで登るのはデンジャラスと聞き、早めにベッドを確保して休むことにした。ここから先は、マチャプチャレ・ベースキャンプと、アンナプルナ・ベースキャンプがだけが残されている。

デウラリのロッジの登山マップには、ユキヒョウが描かれていた。森林限界を超えた標高3,500m以上の岩場などにユキヒョウが生息しているそうだ。
Day 10:デオラリ (3220m) ~ M.B.C. (3650m) ~ A.B.C. (4130m)
2007-11-09
朝5時。標高3,220mにあるデオラリのロッジの外に出ると、頭上には満天の星空が広がっていた。体の疲れを忘れて星を眺めていると、やがて、東の空がうっすら明るくなり、星は少しずつ空の明るさの中に消えていく。空は晴れていて最高の天気だった。


早めに朝食を済ませ、7時前にロッジを出発。登山道には白い雪がうっすらと積もっていた。

谷の向こうに稜線の美しいガンガプルナ(7,455m)の一部が見える。

靴はロータイプのトレッキングシューズなので、雪道を歩くには厳しかった。しかし、ポーターたちは、裸足にサンダルで雪のルートを登っていく。

途中、標高3,750mのマチャプチャレ・ベースキャンプ(M.B.C)を通過する。背後にはガンガプルナが連なる。

ここでは、ポカラから遠くに眺めていたマチャプチャレ(6,993m)が世界を半分覆っていた。高低差3,200mのマチャプチャレの西壁が目の前にそそり立つ、もの凄い世界だった。

しばらくすると、尖った山頂の後ろから朝の太陽がまぶしく差し込む。マチャプチャレ・ベースキャンプ(M.B.C)から見上げるマチャプチャレは別格で、神々しかった。

雪道をザクザクと登る。靴の中に入った雪が溶けて冷たかった。

途中、雪解け水が小さな川となって至る所に流れていた。

マチャプチャレ・ベースキャンプから雪道を歩くこと2時間、ついに、「アンナプルナ・ベースキャンプ(A.B.C)」(標高4,130m)に到着した。

二枚重ねて靴下を履いていたのに雪で濡れ、足の指先の感覚がなくなるほど冷たかったが、ついにここまでたどり着いて嬉しかった。


アンナプルナベースキャンプからは、マチャプチャレの西壁をとてもクリアに見ることができる。神聖な山として崇められ、登山が禁じられている人類未踏峰。いつまででも眺めていられるような魅力がある。

17:10、マチャプチャレの山頂を西日が照らしたところで、辺りは暗くなっていった。
ベースキャンプのロッジの個室は満室だったので、僕らはネパール人のポーターやガイドたち15人と一緒に、ダイニングルームで寝ることになった。暖炉の火が残るこの部屋は暖かかく、何よりポーターやガイドと一緒なので安心だった。夜は視界がほとんどゼロになるほど吹雪いていた。みんなで20:00就寝。
Day 11:A.B.C. (4130m) ~ バンブー (2335m) ~ シヌワ (2340m)
2007-11-10

朝5時半、窓は凍りつき、氷柱が垂れていた。暖炉の火が消えたダイニングルームはすっかり冷え込み、毛布の中から出るのに少し勇気が要った。ロッジの外に出ると、アンナプルナⅠ峰(8,091m)に朝日が差し込み始めていた。

アンナプルナⅠ峰が朝日を受けてモルゲンロートに染まり、黄金に輝いていた。

世界第10位の高さを誇るアンアプルナⅠ峰は、1950年にネパールの鎖国が解かれたあと、人類初の8,000m峰登頂の舞台となった。多くの登山家が命を落とすキラーマウンテンとしても知られ、氷河を抱いたその姿は、シャープなマチャプチャレとは対照的で、圧倒されるような力強さを感じる。

アンナプルナ・ベースキャンプは、アンナプルナⅠ峰やマチャプチャレだけでなく、アンナプルナ・サウス(7,219m)、シング・チュリ(6,501m)、タルプ・チュリ(5,663m)、アンナプルナⅢ峰(7,565m)、ガンダルバ・チュリ(6,245m)、ヒウン・チュリ(6,441m)といった神々しいばかりのネパールヒマラヤの名峰にぐるりと取り囲まれている。

風にはためくチベットのタルチョ。言葉を失うほどの大パノラマに、疲れや寒さを忘れて心の底から感動した。

この場所できれいに山が見えるのは朝のうちだけだと聞いていた。昼になると天気が荒れるそうだ。周りのトレッカー達が続々と下山を始めたので、僕らもロッジに戻って身支度をして、来た道を引き返すことにした。

マチャプチャレを真正面に見ながらの下り道。雪の照り返しが強く、サングラスをしなければ目を開けていられないほど眩しい。



ベースキャンプからの下り道は、気持ちの余裕もあり、美しい山々を眺めながら歩く余裕があった。

朝9時にA.B.Cを出て、3時間ほど歩いた頃に細かい雹が降り始めたが、幸い天候が荒れることはなかった。

ベースキャンプからの景色も素晴らしいが、この巨大な谷の景色も美しい。さらに1時間下り、13時には2日前に泊まったデオラリまで戻ってくることができた。昼食にピザを食べ、チャイで身体を温める。
今日はもう少し先まで降りてしまいたいので先に進んだ。日が暮れかけた夕方17時半にバンブー(2,335m)に到着。しかし、バンブーのロッジはどこも満室で、空きがなかった。暗くなってきたので先に進むべきかどうか迷ったが、次のシヌワまでは1時間の距離だったので進むことにした。しかし、これが大きな間違いだった。
歩き始めて30分ほどであたりは真っ暗になり、山道を小さなライトを頼りに歩くことになってしまった。ヒマラヤの闇の中を3人の単独グループで歩くという非常に危険な状況だった。
それでも何とか夜の森を抜けて、シヌワに着いたのは19時過ぎだった。しかし、シヌワでも数件あるロッジは全て満室だった。詰んでしまった状況だったが、SINUWA GUEST HOUSEのスタッフが状況を察して、スタッフ用の部屋を僕らのためにわざわざ片付けて空けてくれた。寒いからとチャイも出してくれて、本来なら終わっていたはずの夕食のダルバートの準備までしてくれた。その温かさに本当に感謝しかなかった。そして、無計画なトレッキングを反省した。
Day 12:シヌワ (2335m) ~ ジヌーダンダ (1600m)
2007-11-11

朝7時に目覚めると、往路でシヌワに泊まった特は、雨だったのでわからなかったが、マチャプチャレが谷の奥に見えていた。

マチャプチャレは、山頂部が魚の尾びれのように見えることから「フィッシュテイル」という別名があるが、ここからの眺めはまさにフィッシュテイルだった。

朝食にグルン・ブレッドをハチミツで食べる。このパンは、グルン族の伝統的な揚げパンで、食感は外側カリッと、中はもちっとしていて素朴だがおいしい。

ベースキャンプから約2,000mの高低差を一気に降りてきたので、昨日までの雪景色が嘘のように、外は緑が生い茂っていて瑞々しい。筋肉痛で体中が痛いが、今日は温泉で有名なジヌーダンダに行くのでやる気が出る。






ヒマラヤでは、多様な生物を見ることができるが、森林限界を超えた岩だらけの高山エリアと深い森のあるエリアは、紙一重のところにあるのだと感じる。帰り道は心身ともに余裕が生まれ、シャッターを押す回数が増えた。

シヌワから3時間ほどでジヌーダンダまで降りてくることができた。日当たりの良い部屋にチェックインし、少し休憩してからタオルだけ持って温泉のあるという川へ向かった。しかし、地図上で近くだと思っていた温泉は、ロッジから30分も山を降りなければならなかった。
ジヌーダンダの温泉は、アンナプルナの谷を流れるモディ・コーラ(モディ川)のすぐ脇に湧いていて、開放的な雰囲気。湯温も熱すぎず、ぬる過ぎずでちょうどいい。10日間もシャワーを浴びていなかったし、体をお湯に浸けたのは、浴槽のあったチベットのギャンツェのホテル以来2ヵ月半ぶりだった。足腰の痛みが和らいだ気がするし、何より大自然の中で温泉に入るのは本当に気持ち良かった。

ジヌーダンダのロッジでは、イギリス人バックパッカーと相部屋だった。リバプール出身の彼は一人でトレッキングをスタートしたが、2日目でお腹を壊してしまい、このロッジで2~3日安静にしてからからベースキャンプへ向かうそうだ。訛りの強い英語で聞き取るのが大変だったが、このあとイギリスに行く予定だと言うと、リバプールのおすすめの場所を地図に描いて教えてくれる気さくな男(31歳)だった。
Day 13:ジヌーダンダ (1600m) ~ ナヤプル (1170m)
2007-11-12

トレッキング13日目。ロッジでゆっくり朝食をとり、朝10時に出発した。今日は渓流沿いをスタート地点のナヤプルまで歩く。起伏も少なく、今となっては簡単に思えるルートだ。なんといっても、もうすぐポカラに戻れると思うだけで自然と足が前へ出た。

足下を黄色の斑点がある大型のトカゲが通り過ぎ、草むらの中へ逃げていった。尻尾まで含めたら50~60cmはあっただろうか。後で調べるとヒマラヤンアガマと言うトカゲで標高4,000mあたりにまで生息しているらしい。





ジヌーダンダを歩き出してから7時間半後に夕暮れの時のナヤプルに到着し、13日間にわたるトレッキングは無事に終了した。悪天候で思うように進めない日も多く、行程は予定より長引いてしまったが、怪我なく無事に帰ってくることができた。

アンナプルナ内院トレッキング、自分の足でゆっくり進みながら、毎日変わっていく山を眺めて、空気を感じ、ヒマラヤに住む人の暮らしに触れる。それは、始める前は想像もできない様な素晴らしい体験だった。重たい荷物を背負って自分と向き合い、自然に身を委ねたトレッキング。山を見て自分を見たような気がした。まだ旅の途中だが、この経験ができて本当に良かったと思う。

今回、僕らが歩いたのは地図に赤でラインをつけたルート。ナヤプルから時計回りにゴレパニを経て、アンナプルナの内院へと入るルートだ。体力があれば10日間で歩ける行程だが、僕らは雨の影響もあり13日間かかった。アンナプルナ山域全体を大まわりで一周するアンナプルナ・サーキットと呼ばれるルートもあるので、いつか歩いてみたい。